映画『The Debt』の一番早い前評判
30年の時を経てヘレン・ミレン達に再び覆いかぶさる黒い記憶とは?
【作品基本情報】
| 邦題: | 未定 |
| 原題: |
The Debt
〔Official Site〕
ザ・デブト |
| ジャンル: | スリラー、悪との対峙、ロマンス |
| 出演者: | ヘレン・ミレン、トム・ウィルキンソン、キアラン・ハインズ、ジェシカ・チャステイン、マートン・ソーカス、サム・ワーシントン、ジェスパー・クリステンセン、他 |
| 監督: | ジョン・マッデン |
| 日本公開: | 未定 |
◆悪を罰する事の重み
どこの物語でも、ヒーローより悪役の方が個性的で、ともすれば魅力的だ。
邪悪な存在は、一切の光を放つ事もなく、真っ黒である。それゆえに、純粋なのかもしれない。
そして、身を奇麗に保たなければならない正義の見方より、真に邪悪な存在の方が数段強い影響力を持っている。本当のモンスターに対峙したとき、我らがヒーローは、それまでの清く正しい存在のまま居られるのだろうか?
たとえば、ここで紹介する新作映画「The Debt」で、イスラエルから共産主義が支配する東ベルリンへと潜入した、3人のモサド諜報部員達は、人間の中でも、もっとも邪悪な種類、ナチの戦犯を捕らえる事に成功する。
彼らは、自分らに課せられた正義の行いを、完遂する事が出来たらしいのだが、その後30年間に亘り、邪悪な影の記憶に苦しまされ続けるのだそうだ。
イスラエル製のスリラーを、ハリウッドでリメイクしたこの作品の、前評判から、とりあえず見てみることにしよう。
◆あらすじ
本作のプロットは、大体以下のとおりである。
1995年のとある日、レイチェル(ヘレン・ミレン)、そして、ステファン(トム・ウィルキンソン)らの下へ、久しぶりの連絡が入る。
実は、彼ら2人は、イスラエルの諜報機関、モサドの元エージェント達だ。なんでも、2人の元盟友、デヴィッド(キアラン・ハインズ)の身の上に、何か良くない事が起きたらしい。
思えば、彼らを英雄にしたてた作戦を、3人共に達成したのは1966年の事。若きレイチェル(ジェシカ・チャステイン)は、祖国イスラエルを離れ、当時ソ連が実質支配していた、東ベルリンの土地へと潜入していた。その土地にはすでに、当時モサド最年少の作戦チーフであったステファン(マートン・ソーカス)、そして、かの地において29歳の誕生日を迎えたデヴィッド(サム・ワーシントン)が待ち構えていた。
彼らの任務は、ナチの残党であり、この土地に偽名と共に身を潜めて、婦人科医をしているはずのディエトル・ヴォーゲル(ジェスパー・クリステンセン)を見つけ出し、捉えて、イスラエル国内で裁きを受けさせるようにする事だ。
そして、レイチェルがこの地に来た目的は、自らがヴォーゲルの患者となって、彼がナチの残党であるという証拠を掴む事なのだ。
彼女の勇気有る活動は功を奏して、ついに、悪の権化であるヴォーゲルを捉えた3人のモサド達。彼らは、この戦争犯罪人を、東ベルリン市内のアパートに先ず監禁し、イスラエルへ送る機会を待った。しかしその仕事も、共産主義の支配が浸透したこの土地で、容易に成し遂げられるものではなかったのだ。
そうこうしている内に、真の邪悪さを見せ始めたヴォーゲルは、3人の心の内、その不安と緊張を見透かしたように、怪しげな言葉で彼らに揺さぶりをかけてゆく。
3人の張り詰めた心の糸は、いつしか限界に達している。そして、それが起こった…。
作品の批評は以下をご覧いただきたい。
◆過去の英雄的行為が今を侵食する
2007年のイスラエル製スリラー作品を、ジョン・マッデンがリメイクした、この新作映画「The Debt」は、1965年の東ベルリンにあるアパートと、30年以上時が過ぎた、陽光まぶしいテル・アヴィヴの高級地を、またいで語られてゆくものだ。
マシュー・ヴォーン、ジェーン・ゴールドマン、そして、ピーター・ストローガンにより脚色された本作は、過去に起きた事実が、現在における要求によっても、陰影を与えられ浮き上がるという事に注目してゆく。さらにそこで、単純なヒロイズムの物語の背後に存在し得る、道義的、精神学的な複雑さも明らかにしてみせる。
ベルリンの場面では、サム・ワーシントンがデヴィッドを、マートン・ソーカスがステファンを、そして、レイチェル役をジェシカ・チャステインが演じている。チャステインは、戦争犯罪人を捕らえたり、後に、威厳と厭世的気分を備えたヘレン・ミレンに成長する、と思わせるには、ややデリケートすぎるきらいもある。たとえそうだとしても、彼女が見せる顕著な感受性は、この映画「The Debt」の中心に、感情的な引力を与えてもいるのだ。
そこでの事態は、ナチ戦犯のヴォーゲル(イェスパー・クリステンセン)を拉致する、念入りになされたはずの計画が、妙な方向へ進み出すとき、より複雑な描き方で語られてゆく。レイチェルとデヴィッドの2人は、この、邪悪さの権化のような男の見張りに立つには、余りにも正直で理想主義的だ。彼らの魂は、ここで危機に面する事になってゆく。その男の記憶は、30年の後も、彼らの中に呪いのように付き纏うのだ。
それは、ひょっとしたら彼ら2人自身の抱えた罪なのか、あるいは、彼らが覆い隠す事に必死な、隠された真実が有るのかもしれない。ともかく、この「The Debt」が、より複雑でサスペンスフルに変容して行くとき、同時に、より明白さが増し過ぎて、ドラマ的な強さは失われがちでもある。
ここで、2人の役者が演じるレイチェルという人物が、同一人物だとは思えない成りをしていたとしても、彼女らには、それぞれの方向性において、観客の心を掴む点が見て取れるだろう。それは、ジェシカ・チャステインの見せる表現力と、ヘレン・ミレンにあるストイックさである。
一方、男性陣は全て、より単純で、おおざっぱに描かれた存在になっている。それでも、俳優達は、それぞれの仕事を、信念を持って効果的にこなしており、さらに、マートン・ソーカスがそこへ、ユーモアとセックスという要素を、加えてもいるだろう。
(The New York Times)
ナチの残党が、全員、必ず、悪魔のような人格だ、というのは、今時の脚本にして考えてみると、やや単純すぎる気もしないだろうか?
まぁ(詳しくはしらないけれど)、イスラエルを中心に書かれた物語では、ナチスに人間性を持たす事が、未だにタブーなのかもしれない。
◆俳優の素晴らしい演技が、価値を与えた'借り'
この新作映画「The Debt」は、あの、ハリウッド俳優サム・ワーシントンが、「ターミネーター」、「アバター」、そして「タイタンの戦い」以前に、彼について巻き起こった騒ぎが何であったのかを、初めて示す作品である。
ホロコーストを生き延び、罪悪感を抱えたままモサドの諜報部員となり、戦争犯罪人に裁きを下す人物として、ワーシントンは、その脆弱さや、キャラクターの中の多層性など、これまでの大作アクション映画が、彼に許さなかった部分を、ここでは示唆してみせているのだ。
2007年の、とてもよく出来たイスラエル製スリラーであった、この「The Debt」は、今回、見る者の神経を刺激する娯楽作として、ハリウッドのリメイクを生み出した。
「The Help」、そして「ツリーオブライフ」のジェシカ・チャステインは、そこに隠しているだろう、その恐怖や嫌悪感を、とても素晴らしく表してみせる。彼女は、捉えた戦犯が過去に行った残虐行為の写真を、すでに見ているのだ。
マートン・ソーカスは、表に出さない所で、(同じ人物の年老いた役を演じる)トム・ウィルキンソンのイントネーションを、賢く真似てみせている。同様に、ワーシントンとキーラン・ハインズは、上手くかみ合っても居るし、チャステインとヘレン・ミレンの2人もまた、共通の頑固さを表現している。
ハインズやソーカスという、並外れた役者に並べて、二人のオスカー俳優を擁し、新進のジェシカ・チャステインと、「アバター」のスター、サム・ワーシントンに念願の演じる機会を与えつつ、ここでの、'借り=Debt'には、決着が付けられたとも言う事が出来るだろう。
(The Denver Post)
もちろん、罪は裁かれるべきなのだが、だとしても、人、団体、あるいは国が、特定の相手への憎悪を燃やし続ける事だけで、まとまって前進する原動力としてゆくのは、あまり健康的な姿でもない。
いろいろな考え方が有るのだろうし、重大で凶悪な罪の被害者達は、そんなに簡単な事ではないと言って怒るのだろうが、どんな感情でも記憶でも、時と共に薄れて行くべきで、そうなってこそ人は救われるような気もする。
ナイーヴで甘い考えだと言われるのも判っているが、憎しみに油をそそがれ続けるより、それを消して、忘れる機会を用意してもらったほうが、誰でも幸福なのではないかとも思うのだ。
特に、過去の怒りや痛みを、保守層の資産家から製作予算を搾り出す目的で、娯楽映画の形の中、お安く再現し付けるのも、どんなもんなのだろうか?
だって、、、そうやって、自らの行いの歴史を強化し続ける事こそ、真に邪悪な、デーモンの如き者達の目的なのだから、、、。
2011年9月 8日 08:00






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